どうもこんにちは。
久々の記事な気がしますが、今回は「この生成AIのツール使いたいんです!」とアピールした時に 合理的に 生成AIのツールを使ってもらえる方法を紹介します。
記事執筆時点で目標を達成したわけではありません...
開発部のメンバーがChatGPTの有料アカウントを配布!
時を遡って、2023年6月。
弊社のシステム開発部では、全てのメンバーに ChatGPTの有料アカウントが与えられました。
問題点
メンバー全員がChatGPTを使えるようになりましたが、問題が発生していました。
コストが高い!!!
メンバー全員がChatGPTを使いこなせる状態 であれば、安いでしょう。
ただし、一部しかChatGPTを使いこなせない状態 であればどうでしょう。
全く使用しないメンバーに有料のアカウントを払い出すのもなんか無駄な気がしますよね?
では、全く使用しないメンバーには有料のアカウントを払い出さない方針にしたとしましょう。
すると以下の問題が出てきます。
不平等!!
実績や成果で評価されない企業にとっては大きな問題ではないと思いますが、実績や成果で評価される企業にとっては、「成果を出すための環境が平等じゃない」という問題が発生します。
また、「やっぱりChatGPT使ってみたい」ってなった場合に、「不平等だ!」という声が上がるかもしれません。
そうすると、無料版使い始めるメンバーがいるかもしれません。世の中に出ている生成AIツールの無料版には、以下のような特徴があることが多いです。
- 入力されたデータが二次利用(モデルの再学習に使用)されてしまう
- モデルが学習に使用された個人情報を出力してしまい、個人情報が流出してしまう
これはアカンですよね。業務といえど会社の機密情報が漏れてしまったら大問題です。
やっぱりメンバー全員に有料アカウントを付与する必要があるのかな...
って思いますよね。もっと具体例を出して計算してみましょう。
現実
ChatGPTの有料版は1ヶ月あたり「20ドル」もしくは「25ドル」です。
弊社の開発部には9名在籍しているので、最低でも1ヶ月あたり「180ドル」かかる計算です。
日本円に換算すると大体「25,000円」。メンバー全員がフル活用するのであれば安いかもしれません。
では、全社的に導入すると仮定するとコストはどうなるのか。
弊社には140名の社員が在籍しているので、最低でも1ヶ月あたり「2800ドル」かかる計算です。
日本円に換算すると大体「40万円」。メンバー全員がフル活用するのであれば安いのかもだけど...
実態を見てしまうと高く感じてしまう...
ですが、実態はそうではないです。140名全員が「ChatGPTを使いこなせる人間」かと言われると違います。
詳細については以下のサイトを参照していただきたいのですが、日本の企業では 9.1% の社員しか生成AIを使用していないという調査結果が出ています。
日本がだいぶ遅れている気がしますが...
日本がだいぶ遅れている気がしますが...
では弊社で考えてみましょう。弊社の社員数は140名です。その9.1%は、「12.74人」です。
1ヶ月あたり40万円支払って12,13人の社員しか生成AIを使用しない って考えるとどうでしょう?
「1人あたり3万円」です。めちゃめちゃ高く感じませんか?
まとめ その1
ここまでで、コストを気にする企業が生成AIツールの導入を渋る理由がお分かりいただけたかと思います。
140人分の12人しか使わないのに月に40万円支払うのは気が引けますよね...
定額よりも従量課金!
無料はダメ。定額もダメ。ということは残る選択肢は一つです。「従量課金」です。
Amazon Bedrockが神様!!
Amazon Bedrock は、単一の API を通じて AI21 Labs、Anthropic、Cohere、DeepSeek、Luma、Meta、Mistral AI、poolside (近日リリース予定)、Stability AI、TwelveLabs (近日リリース予定)、Writer および Amazon などの先駆的な AI 企業からの高性能な基盤モデル (FM) の幅広い選択肢を提供するフルマネージドサービスであり、セキュリティ、プライバシー、責任ある AI を備えた生成 AI アプリケーションを構築するために必要な一連の幅広い機能を提供します。Amazon Bedrock を使用すると、ユースケースに最適な FM を簡単に試して評価したり、微調整や検索拡張生成 (RAG) などの手法を使用してデータに合わせてカスタマイズしたり、エンタープライズシステムとデータソースを使用してタスクを実行するエージェントを構築したりできます。Amazon Bedrock はサーバーレスであるため、インフラストラクチャを管理する必要がありません。また、使い慣れた AWS サービスを使用して、生成 AI 機能をアプリケーションに安全に統合してデプロイできます。
Amazon Bedrockでは、「API経由」かつ「従量課金」で生成AIモデルを使用できるサービスです。
従量課金制であれば、「使いたいメンバーが使いたい分だけ使うことができる」
弊社ではAmazon Bedrockを使用して以下のツールを作成しました。
- AIマニュくん(製品マニュアルチャットボット)
- 超簡易版 AIチャットアプリ
AIマニュくんってなに?
ネーミングセンスはほっといてください笑
AIマニュくんは弊社のデジタルサイネージ統合管理サービス「OneGATE」の使い方をAIに聞くことができる社内向けツールです。
使用しているツール・技術は以下です。
- Slack または Microsoft Teams
- AWS
- Bedrock
- Anthropic Claude
- KnowledgeBase(VectorDB: Pinecone)
- API Gateway
- Lambda
- DynamoDB
- S3
- Bedrock
上記から分かるように、「検索拡張生成(RAG)」を使用しています。
他の業務と並行して開発していたので、実装期間は2024年7月〜2024年11月とやや長めです。
普及した?
正直言って、AIマニュくんは 普及しませんでした。
原因
原因は以下だと考えられます。
- 開発をしているメンバーはソースコードを見れば分かるので、AIに聞く必要がない
- 「仕様についてわからないことがあれば社内の人間に聞く」という癖がついている
- SlackやTeamsは対人間チャットツールなので、AIを使用できるという考えにならない
対処法
上記から、自分は以下のように考えました。
- 開発メンバーは通常のAIチャットの方が使用しやすいのではないか?
- 開発以外のメンバーに使ってもらうには、対人間チャットツールとは別にツールを用意した方が良いのではないか?
まぁ、そもそもですが、 生成AIツールを使用して成功体験を得ることが最初のステップなんじゃないか? と考えました。
上記のことから、超簡易版で良いからAIチャットアプリを開発して、簡単に使ってもらおう!と思い、AIチャットアプリを自作しました。
超簡易版 AIチャットアプリを2時間で開発
まずは開発部内で生成AIを簡単に触ってもらい、レビューをもらおうと思い、セッション管理の機能すら存在しない簡易的なAIチャットアプリを開発しました。
使用したツール、サービスは以下です。
- HTML/CSS/JavaScript
- AWS
- Bedrock(Claude)
- S3
- Amplify
- API Gateway
- Lambda
最低限のセキュリティとして、Amplify上で以下のセキュリティ対策はしています。
- ドメインの設定(SSL証明書)
- ファイアウォールの設定(弊社のネットワーク内のみで使用可能)
実際に運用してみて
実際に運用してみて、以下のような効果がありました。
良い効果
- AIマニュくんと比較して、用途が幅広いため、手を出しやすかった
- あまりChatGPTを使用しないユーザにとっては、低いコストで生成AIを触る良い機会となった
- 生成AIツールに対する全体的な コストを下げることができた
悪い効果
- 頻繁にChatGPTを使うユーザにとっては、 UIや機能面で物足りなさを感じた
対処法
上記を踏まえた上で、以下のように改善をしていこうと考えました。
- UIや機能面を充実させていく
- セッション管理をできるように改修する
そんな時にAWS Summit 2025に参加!!
上記の「AIチャットアプリを改善していくぞ!」と意気込んでいた時に、AWS Summit Japanに参加をしました。ここで、とあるAWSのエンジニアの方に素晴らしいツールを教えていただきました。
「Bedrock Engineer」という神ツールを発見!
Bedrock Engineerは、「Builders Fare」というブース内で、ローカルPC上で動作する生成AI開発エージェントとして紹介されていました。
↓Bedrock Engineerについてのスライドが公開されています。↓
Bedrock Engineerでできること
搭載されている主な機能としては以下です。
- AI エージェント対応チャットインターフェース(ファイル操作とコード生成を含む)
- カスタムツールとエージェントのサポート
- 図表・ダイアグラム生成
- AWS Step Functions 生成
- ウェブサイト生成
- 音声チャット
- ナレッジベース検索
結構いろんなことができますが、イメージとしては「ChatGPTとClaude Codeの融合版」かなと思っています。
画面イメージ
AIチャット画面では、Claude Codeと同様に「PLAN」モードと「ACT」モードが存在しています。
- PLANモード・・・ファイルへの書き込みをしないモード
- ACTモード・・・ファイルへの書き込みをするモード
ChatGPTの代替版として使用するのであれば、「PLAN」モードで使用すれば十分なのかなと思っています。
具体的な使用方法は以下のサイトで紹介されていましたので、添付しておきます。
インストール方法
以下の手順でインストールできます。MACとWindowsの場合で異なります。
前提条件
- 「Nodejs」をインストールしておくこと
- 「AWS-CLI」をインストールしておくこと
- 「AWSアカウントのアクセスキーとシークレットアクセスキー」を入手しておくこと
MACの場合
% git clone https://github.com/aws-samples/bedrock-engineer.git
% cd bedrock-engineer
% npm install
% npm run build:mac
Windowsの場合
- https://github.com/aws-samples/bedrock-engineer にアクセスする
- READMEの「Getting Started」>「Windows」の項目からexeをダウンロードする
AWS Summitの翌日に社内に共有!!
AWS Summitの翌日に弊社のシステム開発部内に共有をしました。
今までも、「Cursor」や「Cline」、「Claude Code」について部署内に共有をしてきましたが、イマイチ広まった感覚がありませんでした。
理由としては、「CursorはVS Codeで代用できるからなぁ...」「ClineとはClaude Codeはプログラマーが使うものだしなぁ...」「そもそも開発する時はVS Codeとか使ってないからなぁ...」というようなものがありました。
部署内に好評じゃん!!
共有して一週間、お試しでBedrock Engineerを使用してもらいました。その結果、以下のような声がありました。
- AIマニュくんみたいに何かの用途に特化していないので使いやすい!
- ChatGPTに似たUIなので使いやすい!
- ChatGPTと回答を比較した時に、ほとんど同じような回答が返ってきたので精度も良い!
コストはどう?
では、実際にこの一週間でかかったコストについてです。
弊社では、検証のために使用するモデルを「Claude 3.7 Sonnet」に統一しました。
実際に一週間でかかった金額は以下です。
2025/06/27(金)〜2025/06/30(月)
2025/07/01(火)〜2025/07/04(金)
月を跨いてしまったので2つに分かれてしまっていますが、合計で「19.01ドル」でした!
弊社のシステム開発部9名で1週間使用して19ドルなので、1ヶ月間使用したら 100ドル未満 で収まりそうですね!
では、会社規模で考えてみましょう。弊社には140名の社員が在籍しています。9名で19ドルとして計算すると、295.5ドル でした。ChatGPTの有料プランを契約した場合は 2800ドル かかる計算だったので、ほぼ10分の1ですね!
アンビリーバボー!!!
結果として導入自体は大成功かなと思っています!
Bedrock Engineerでできないことは?
逆に、Bedrock Engineerには、以下のような弱点もあると考えています。
- Amazon Bedrockに依存している
- スタンドアロンで動作するツールなので、アップデートがあった場合には自分で再ビルドしなければならない
そのため、上記のことから、「社内の非エンジニア社員に拡散することには向いていない」と考えています。
でも最終目標は、社内全体で生成AIチャットを使って欲しい!
今後、私は以下の方法で社内に展開しようと考えています。
- Bedrock Engineerのソースコードを改修して、非エンジニアが使用するであろう機能のみを残す
- Webアプリケーションとして改修
- AWSのサーバー環境へデプロイする
Bedrock Engineerは、TypeScript・React、・Electronで開発されているので、Webアプリケーション用フレームワークに置き換えることでサーバー環境で動作するようになると考えています。
こうすれば、「社員が生成AIを使用した分のコスト」+「アプリケーションを動かすサーバーのコスト」だけで社内に生成AIツールを展開することができます!
本当はサーバレス環境で動作させられればいいんですけどね!
まとめ
- 生成AIツールの定額プランは、考え方や環境によってはかなり高額である
- 従量課金であれば使った分だけの支払いで済むので、「無駄」がなくなる
- Bedrock Engineerであれば、エンジニアも非エンジニアも使うことができる(弱点もあるけど)
この内容をLTでお話ししたいなぁ...