はじめに

2025/7/14に、AWSが新しいIDEである「Kiro」をパブリックプレビュー版として提供開始しました。
解説によると、このKiroには「Specs」「Steering」「Hooks」などの機能があり、AIエージェントが自然言語や仕様(要件)、トリガーに基づいてコード生成や作業の補助を行えるとあります。
多くのAIコーディングエージェントと同じように使えると読める解説となっています。

本記事では、このKiroを早速インストールして動かし、その特徴を掴んでみたいと思います。
特に、Kiroが持つコーディング機能であるSpecモードにフォーカスし、その特徴を解説しながら、実際に利用してコーディングする様子を紹介します。

Kiroのインストール

まず kiro.dev からインストーラーを取得し、それぞれのOS向けの指示に従ってインストールします。
今回インストールする環境はMacOSです。

初回起動とログイン

起動時に、SNSなどのIDまたはAWSのBuilders IDでサインインします。

設定のインポート

VS Codeの設定や拡張機能をインポート可能です。
その他のエディタを使っている場合はスキップもできます。

今回は一旦飛ばします。

テーマの選択

今回はダークモードにします。

テーマを選択した後、シェルの統合を許可し、AIエージェントによるコマンド実行を有効化します。

プロジェクトの起動

Welcomeページにやってきました。
プロジェクトを起動してみましょう。

hello-kiro とでもしておきます。

「Yes」の方を選んで進みます。

Steeringファイルを生成する

まずやることはSteeringファイルの生成です。

サイドバーの “ゴースト” アイコンを押した後、AGENT STEERINGにある「Generate Steering Docs」を押します。

この操作を行うと、以下の3ファイルが自動で生成されます。

• product.md
  • 製品概要や機能を定義
• structure.md
  • アーキテクチャやフォルダ構成を定義
• tech.md
  • 使用技術のスタックを定義

二つのモード

右側のチャットウインドウで指示を出すことができます。

Vibeモード

ここでVibeモードを選ぶと、ClineやClaude CodeのようにVibe Codingが利用できます。

チャットの画面には「Claude Sonnet 4.0」の文字があり、最新のAnthropic Claudeが使用できることも分かります。
こちらのモードは、1から自由に何でも作るために使用するものと言えるでしょう。

Specモード

今回、Kiroの売りとなっているのはこちらの「Specモード」です。
Specモードでは、アイデア出しから製品化までのプロセスをなぞりながら、体系的に開発を進めることができるようになっています。

そもそもSpecとは何なのか

Spec (specification または specification document) とは、日本語で「仕様」または「仕様書」を意味する用語です。
従来から、仕様書は開発者や関係者間で認識を統一し、製品開発をスムーズに進めるために不可欠であり、AIコーディングエージェントを利用した開発を組織で進める上でも引き続き重要です。
SpecモードはKiroの製品紹介にも書かれている「仕様駆動開発」を体現する中核機能で、開発を「構造化された開発プロセス」の枠組みの中で進めるための仕組みです。

そのプロセスは以下のとおりです。

要件定義 (Requirements) フェーズ

例えば「パスワードを生成するアプリ」を作りたいと入力します。

Develop an application that generates 10 different passwords, each 10 characters long, using a combination of uppercase letters, lowercase letters, numbers, and symbols.

入力すると、Kiroが requirements.md に要件を列挙します。
必要に応じて、チャットで修正を指示することができます。

設計 (Design) フェーズ

要件をもとに、技術設計ドキュメント（TypeScriptインタフェース、UXフロー、アーキテクチャ案など）を自動生成できます。
チャットに存在する「Move to design phase」を押しましょう。

しばらく待つと、design.md に設計ドキュメントが出来上がります。

実装 (Implementation) フェーズ

実装に向けたタスクリストを生成します。
チャットに存在する「Move to imprementation plan」を押しましょう。

requirement.md に対応する形で tasks.md が完成します。

チャットで指示しながら.mdファイルを編集できます。
また、タスク単位で実行し、コードを生成することができます。

最後に「Finalize task list」を押すと、3ファイルの作成が終了します。

タスクを実行する

tasks.md ファイルを開き、任意のタスク項目の横にある「⚡️ Start Task」をクリックすることで、タスクの実行を開始できます。
プロジェクト構造を設定するためにタスク1から開始し、順番に実行していきます。

実行中は「Task in progress」と表示されます。

しばらく待つとタスク1が終わりますので、続いてタスク2以降を順に実行していきます。

今回はタスクが10個生成されていたので、10個完了するまで実行しました。

途中のエラーハンドリングの実装タスクでは、全てのコードに対して網羅的にエラーハンドリングを追加し、その動作を確かめながら進んでいくため、少々時間がかかりますが、待ちましょう。

振り返ると、最初に指示したのは以下の文言だけです。
Kiroは、この簡単な指示から要件を詳細化し、タスクリストに落とし、その計画通り実行し、アプリケーションを構築していきます。

Develop an application that generates 10 different passwords, each 10 characters long, using a combination of uppercase letters, lowercase letters, numbers, and symbols.

Agent Hooksを設定する

Agent Hooksは、ファイルの保存など、特定のイベントに基づいてアクションをトリガーするための自動化ツールで、以下のような繰り返し発生するタスクを処理できます。(以下のドキュメントから引用します)

• 機能を追加するときにドキュメントを書く
• READMEを更新する
• MCPサーバを介してシステムと同期する
• プロジェクト管理チケットを更新する
• 特定イベント（例：ファイル保存）に連動して自動化処理を実行する

設定は、サイドバーのHooksの画面から追加できます。

MCP サーバとの統合

外部コンテキストを提供するMCP（Model Context Provider）サーバと連携できます。
これは画面に従って操作するだけなので、単純です。

価格表

気になる価格は、パブリックプレビュー期間中は無料とのことです。
プレビューが終了すると、以下の価格になると書かれています。
ProとPro+の違いは、エージェント機能の操作回数にあるようです。

価格に関するよくある質問

価格についてのQAが書かれていますので、引用しながら日本語化して読み解いていきましょう。

Q：Kiroはどのくらいの期間、無料で使えるのですか？
現在のプレビュー期間中は、Kiroを無料でご利用いただけます。開発や検証に支障が出ないよう、十分な利用上限が設定されていますので、安心してお試しいただけます。

Q：プレビュー期間中にも利用制限はありますか？
はい、一定の利用制限は設けられていますが、ほとんどの開発用途で困らないよう、余裕を持った設定になっています。

公式サイトには「合理的な制限」とありますが、この上限値については明確な記述ではなく、使っていく中で見極めるしかないようです。

Q：プレビュー期間が終わった後はどうなりますか？
ご自身の利用状況に応じて、最適なプランを選んでいただくことになります。プランは、無料プランからPro、Pro+といった有料プランまで用意される予定です。

これは価格表の通りですね。

Q：Amazon Q Developer Proを契約していますが、Kiroも利用できますか？
はい。プレビュー期間中は、Amazon Q Developerをご利用中の方を含め、どなたでもKiroを無料でご利用いただけます。Proユーザーの方は、既存のAWS IAM Identity Centerのユーザー情報でそのままKiroにログインできます。

Amazon Q Developer Proの価格と、Kiro Proの価格が同じであることから、二重契約にならないように考慮されているのでしょう。
Q Developer Proのライセンスを持っている状態でPro+にどうやって引き上げるのか、引き上げた時に管理画面でどう見えるのかは要検証と言えそうです。

(追記) Q Developerの料金表がKiroの登場と前後して更新されたようで、Q Developerにも同価格でPro+が登場していました。
このことから、KiroとQ Developerの料金プランは連動しそうです。
Pro+は2025/8/1から登場すると発表されています。

Q：Kiroでいう「エージェントインタラクション」とは何ですか？
Kiroに何かを尋ねたり指示を出したりすると、そのたびに「エージェントインタラクション」が1回分消費されます。たとえば、チャットのやりとり、仕様（spec）の1回の実行、エージェントフックの発火などが該当します。ただし、Kiroがその指示を完了するために行う追加作業（他のツールの呼び出しや、複数回の試行など）は、インタラクションのカウントには含まれません。

明示的にKiroのチャットで指示したり、設定によって一次的に呼び出されるものがカウントされるような書き方になっています。
一方でKiroが内部的に呼び出している指示はカウント対象外となるようです。

Q：Kiro ProやPro+プランで、上限を超えて使った分を支払うことはできますか？
はい、可能です。Kiro ProおよびPro+が正式に提供されるようになると、エージェントインタラクションの上限を超えた分に対しては、1回あたり0.04ドルの追加料金が発生します。
Proプランでは1,000回、Pro+では3,000回のインタラクションが含まれており、それを超えた分について課金されます（事前に追加利用を有効にしておく必要があります）
例えば、Proプランをご利用中で月に1,200回使用した場合、200回分の超過として8ドル（200 × 0.04ドル）が請求される計算です。なお、利用制限はユーザー単位で適用されます。

上限に達するとエージェントインタラクションが打ち止めになることはないようです。
追加分を従量課金で支払えば良いとあります。

終わりに

この「Kiro」という新しいAIコーディングエージェントは、AWSとしても目玉のニューリリースと言え、ClineやClaude Codeが注目される開発者界隈に新たな選択肢を与えるものと位置付けられるでしょう。

しかしながら、この分野はツールの進化が早いばかりか、最新モデルとの組み合わせ、クラウドサービスや外部サービスとの連携性、さらに価格が差別化要素となって、競争が激化しています。

AWSの今回の新しいツールは、他のツールに比べてやや後発ではあります。
差別化がポイントとなりますが、今回動作を確かめたSpecモードには、これからのアップデートへの期待含みではあるものの、複雑性が高い大規模開発への適合などの可能性を感じます。
今後の進化にも、期待したいところです。

参考文献