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2023年9月14日 放送
老舗"家庭用品"メーカー
「象印」ものづくりの全貌

- 象印マホービン 社長 市川 典男(いちかわ のりお)
家電量販店にずらりと並ぶ炊飯器。中でもひときわ目を引くのが、数万円という高価格帯の製品だ。パナソニックや日立など大手家電メーカーがひしめく、この高級炊飯器市場でトップシェアを誇るのが、象印マホービンの「炎舞炊き」シリーズ。スマホ操作などの多機能化よりも「いかにおいしいごはんが炊けるか」にこだわり抜いたことで、消費者からの支持を得ている。炊飯器=おいしいごはんを炊くという製品の"本質"を追求し、躍進を遂げる象印流ものづくりに迫る!
社長の金言
- 家電メーカーと張り合わず 家庭で喜ばれるものづくりTweet
放送内容詳細
炊飯器トップシェアの最高傑作
埼玉県の立ち飲み屋で常連客に人気のメニューは何と、〆のおにぎり。人気の秘密は「炎舞炊き」で炊いたごはんだった。家電量販店に並ぶ高級炊飯器の中でも「炎舞炊き」は圧倒的な売れ行き。高級炊飯器の売り上げの半分以上が炎舞炊きによるものだという。買い求める多くの客は「おいしいごはんが炊ける」という評判を聞きつけて購入していく。なぜ、おいしいごはんが炊けるのか…その答えは炊飯器の底に取り付けるヒーターの構造にある。熱源となるIHコイルは従来品では1つだったが、その数を6つに増やした。この構造の参考にしたのが昔ながらの「かまど」。開発者の三嶋はかまどを研究し、“炎の揺らぎで起こる対流”に目を付けた。これを6つのヒーターが再現しているのだ。炊飯器の本質はおいしいごはんが炊けること、と考える象印マホービン社長の市川は、企業ロゴにもなっている象のマークを大切にしている。自慢のネクタイコレクションは100本以上、全て象があしらわれたデザインだ。そんな市川は、炎舞炊きのおいしさをアピールする拠点として食堂を開店した。その名も「象印食堂」。炎舞炊きで炊いたごはんがおかわり自由で、訪れた客たちは何杯もおかわりをする。
家庭用品の“本質を追求”して復活
象印マホービンの創業は1918年。市川の祖父が弟と始めた「市川兄弟商会」が起源だ。現在でも、この頃とほぼ変わらない方法で魔法瓶を作り続けている。国内では象印のみが製造するガラス製の魔法瓶。“ステンレス製に比べ中身の味が変わりにくい”と海外のコーヒー好きをうならせている。魔法瓶を使った技術で躍進してきた象印。しかし80年代以降は売上至上主義に走り、魔法瓶とは全く関係のない美顔器やネクタイプレッサーなど流行に乗った製品を発売しては失敗を重ねた。1986年には16億円の赤字を計上。その後も業績は低空飛行を続ける。そして2001年、現社長の市川が4代目社長に就任。業績回復のため改革に乗り出そうとするが、取締役の顔ぶれは前社長時代と変わらないため萎縮…。見かねた前社長は市川を呼び出し、「君は会社をどうしていきたいのか」と叱咤した。そのとき市川は、「うちは家電メーカーではなく“家庭用品メーカー”。原点に立ち返ろう」と決断。魔法瓶や炊飯器で培った「温める」「保温する」技術を活かした事業のみを残す方針で経営を行い、業績は回復に向かった。そして去年、レッドオーシャンともいえる電子レンジ市場にも参入。電子レンジの本質である「温める」ことを追求したことで話題の商品となった。
トップシェアでもさらなる進化
更なるごはんのおいしさを求める象印は、20年近くもの間、東京農大と共同研究を行っている。人間の味覚だけに頼らない、味の数値化などが目的だ。更に社内でも「炎舞炊き」を超える新製品の開発に向けた食味試験が行われている。かまど研究を行った開発者の三嶋も、「おいしさに限界は作らない」という。そんな象印のごはん、実は持ち帰り弁当でも楽しめる。一昨年には新大阪の駅構内に「象印銀白弁当」をオープン。日本全国からごはんに合うおかずを詰めた。鹿児島県枕崎市の特産・鰹節を使った「鰹節生節弁当」など、季節ごとに一風変わったメニューを提供している。
ゲストプロフィール
市川 典男
- 1958年大阪市大阪府生まれ。
- 甲南大学経済学部卒業後、創業家一族として象印マホービン株式会社に入社。
企画本部、営業統括本部、東京支店長などを経て、2001年同社4代目代表取締役社長執行役員に就任。
企業プロフィール
- 会社名:象印マホービン株式会社
- 設 立:1918年
- 売 上:825億3400万円(2022年11月期)
- 従業員数:1308名(2022年11月20日現在)
- 主な事業:調理家電製品、生活家電製品、
リビング製品などの製造・販売およびこれに付帯する事業

会社売上高の4割を占める炊飯器は、国内シェア首位のおよそ3割を占めている。パナソニックなどと比べると売上規模は100分の1程度。しかし日本の食文化を支え、年間出荷額およそ1000億円の国内炊飯器市場で業界トップの座を維持している。「おいしいご飯を」が合言葉。カンブリア宮殿ではベーカリーが主流だ。スタジオでいただいたご飯は、当たり前だが、どんなパンとも違う味、感触だった。ご飯がなくなることはない。家電メーカーではなく家庭用品メーカーという自負がある。その自負が、象印を支えている。