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無線をとことん使ってみた(Wi-Fi編)

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はじめに

世の中には5Gなどのモバイル規格やTV放送、ETCなど電波を用いて無線で様々な情報を伝送する規格が存在します。一方、電波行政を管轄する総務省の電波利用ポータルによると、

「一方で、電波は大変デリケートなので、ルールを守らないと混信や妨害を起こしてしまいます。
電波の利用ルールをご理解いただき、クリーンな電波利用環境の維持にご協力下さい。

との注意喚起が行われています。

そのため、各種無線規格には電波法及び関連法令により様々な制限が課されているため、我々は許された範囲内で電波を有効利用する必要があります。本シリーズでは、電波法で許された範囲内で電波を有効利用するため、各種無線規格をとことん使ってみた結果をご紹介いたします。

総務省 電波利用ポータル 電波の利用ルール より
https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/monitoring/summary/qa/index.htm

Wi-Fiとは(電波法編)

まず、電波を発する機器を用いた無線通信を行う場合、大半の規格は無線局免許が必要です。例えば5G通信が可能なスマートフォンは利用者が無線局免許を取得しているわけではありませんが、通信キャリアが販売しているスマートフォンは一般的に通信キャリアが包括免許として無線局免許を取得しているため、個人の利用者が別途免許申請を行うことなく合法的な5G通信が可能です。また、TVの受信アンテナは電波発射を行わないため、電波受信時に副次的に発生してしまう電波強度が規定値以下のものであれば無線局免許は不要です。

一方で、一部の無線規格には特定の条件を満たすことを前提とし、無線局免許無しでの電波発射が認められています。総務省 電波利用ポータルによるとWi-Fiは小電力データ通信システムという無線局免許が不要な規格とされているため、利用者が無線局免許を取得する必要なく電波発射が可能です。

総務省 電波利用ポータル 小電力データ通信システム より 
https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/system/ml/wlan/index.htm

Wi-Fiと無線LANの違い

総務省の電波利用ポータルサイトでは、基本的にWi-Fiではなく無線LANと書かれています。厳密には無線LANが無線通信で構築されたローカルエリアネットワークのことを示すのに対し、Wi-Fiは無線LANの中における規格の一つを示しています。ただし、一般的にWi-Fiが世界標準として広く使われているため、無線LAN=Wi-Fiと認識されているケースが多くあります。

ただし、総務省 電波無線ポータルに掲載されているFigure 1のようにWi-Fiに割り当てられた周波数は他の無線業務にも分配されているため、他の無線業務に干渉して無線通信妨害を生じさせないように一定の利用ルールが定められています。特に、レーダーなど無線局免許を取得している無線規格に対して免許不要規格のWi-Fiは電波法上弱い立場であるため、利用エリアの制限や他の無線業務を検出した際に電波発射ができなくなるなどの利用条件が定められています。この条件に反してWi-Fiを使用した場合、無線局免許が不要な規格であるWi-Fiであっても電波法違反に該当するため、注意して利用する必要があります。

総務省 電波利用ポータル 無線LANの屋外利用/上空利用について より
https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/others/wlan_outdoor/

Figure 1 総務省 我が国の電波の使用状況の抜粋

Wi-Fiとは(規格編)

Figure 1より、Wi-Fiには4種類の周波数が割り当てられていることがわかります。この中で、中央の2つの周波数帯はまとめて5GHz帯とよばれるため、合計3つの周波数帯がWi-Fiで利用可能です。それぞれ、共用する他の無線業務などの条件によってWi-Fiの利用条件も異なるため、以下に各周波数帯の特徴を記載します。

2.4GHz帯(2400 - 2497 MHz)

本周波数帯は、Wi-Fi初期から利用可能な周波数帯です。特段大きな利用制約はないため屋外利用も可能ですが、他周波数帯と比較して合計100MHz弱しか帯域が確保されていないことと、他の無線業務としてBluetoothなど小電力データ通信システムや、ISM(Industry Science and Medical:産業科学医療用)用の周波数として電子レンジなどにも広く利用されているため、電波干渉が起こりやすい周波数帯と言えます。

5GHz帯(5150 - 5350 / 5470 - 5730 MHz)

本周波数帯は、現在日本国内で幅広く使われている周波数帯です。2.4GHz帯と比較して広い帯域を確保できることから、より高速通信を利用したいシーンで選択されています。また、近年では多くの端末が5GHz帯をサポートしていることから、利用者目線ではあまり周波数を気にせず使えるというメリットもあります。ただし、5GHz帯をさらに細分化するとそれぞれ以下の特徴があります。

W52(5150 - 5250 MHz)

本周波数帯は特定条件を除き屋外利用不可です。ただし、後述のW53/W56と異なりレーダーとの共用を考慮する必要がないため、基本的に常時電波発射することが可能です。そのため、無線を安定して使いたい利用者が好んで本周波数帯を選択する傾向があることから、5GHz帯の中では比較的混雑しやすい周波数と言えます。

W53(5250 - 5350 MHz)

本周波数帯は屋外利用不可です。また、同じ周波数帯で優先度の高い気象レーダーが運用されているため、DFS(Dynamic Frequency Selection:動的周波数選択機能)と呼ばれる機能を実装し、周辺でレーダーが利用されていないことを確認しないと電波発射ができません。そのため、一般的にはW52より利用者が少なくなる傾向がある周波数と言えます。

W56(5470 - 5730 MHz)

本周波数帯は屋外利用が可能です。そのため、5GHz帯で他の端末と通信するモバイルルータなどは、利用エリアを屋外に設定すると電波法に基づき本周波数で電波発射する設定に切り替わります。つまり、モバイルルータを屋内利用設定にして屋外で利用した場合、屋外でW52やW53で電波発射して電波法違反となる可能性があるため、屋外利用時の設定には注意が必要です。

また、同じ周波数帯で優先度の高い各種レーダー(主に船舶・航空で利用)が運用されているため、W53と同様にDFS機能を用いて周辺でレーダーが利用されていないことを確認しないと電波発射ができません。一方で、W56はW52やW53より広い帯域が確保されているため、屋外利用だけでなく屋内であってもより高速通信を求める利用者が本周波数帯を選択する傾向があります。

6GHz帯(5925 - 6425 MHz)

本周波数帯は、2022年に日本国内で利用可能となった周波数帯です。2.4GHz帯や5GHz帯より広い帯域を連続して利用可能なため、さらなる高速通信での利用が期待されています。一方で、まだ6GHz帯対応端末が少ないことや、一般的な利用シーンに適したLPI(Low Power Indoor)モードが屋内利用に限定されており、屋外利用のためにはかなり送信電力を抑えたVLP(Very Low Power)モードで利用する必要があります。2025年時点ではまだ利用者が少ないこともあり、あまり混雑せず快適に使いやすい周波数帯と言えます。

電波強度と電波品質について

無線通信において、よく電波が強いから通信速度が速くなる、と誤解されることが多くあります。一般的に電波強度が強いと電波品質は良くなる傾向がありますが、電波品質は電波強度とノイズとの差分によって決まるため、ノイズの多い環境では通信速度が低くなりやすいです。

Figure 2は3つのパターンで電波強度と電波品質の関係を示しています。aは電波強度が強く、かつ低ノイズであるため赤丸7つ分の電波品質が確保されていることを示しています。一方、bはaと同じ電波強度ではあるものの、高ノイズ環境であるため赤丸3つ分の電波品質しか確保されていません。さらに、cはaと比較して電波強度は弱いものの、ノイズはaと同レベルのため赤丸4つ分の電波品質が確保されています。この例では、電波強度がbより弱いcの方が良い電波品質となることを示しています。そのため、無線のエリア設計を行う場合は電波強度の観点で対象エリアに電波が届くよう設計するだけでなく、電波干渉による電波品質劣化も考慮した方が安定した通信速度を享受できる可能性が高くなります。

Figure 2 電波強度と電波品質のイメージ

測定環境・結果表示手法紹介

今回の測定環境は、他のユーザもWi-Fiを利用しているオフィス環境においてAP(Access Point:Wi-Fi親機)と端末(Wi-Fi子機)がお互いに直接見える環境とし、距離ごとに合計7か所でそれぞれ下り通信速度を複数回測定しました。

測定結果は総務省がガイドラインによって定めた、いわゆる5Gなどモバイル回線における実効速度の集計表示手法に準拠した「箱ひげ図」を採用しています。総務省によると、「箱ひげ図」は、ばらつきのあるデータを分かりやすく表現するための統計学的グラフであり、Figure 3のとおり上下の線でばらつきの最大値と最小値を表示するとともに、中央値に近い半数を四角形で表示することによって測定結果のばらつき具合を把握しやすいグラフとして利用されています。

Figure 3 箱ひげ図のイメージ

総務省 移動系通信事業者が提供するインターネット接続サービスの実効速度計測手法及び利用者への情報提供手法等に関するガイドライン より
https://www.soumu.go.jp/main_content/000371346.pdf

結果及び考察

2.4GHz Wi-Fi 4

まず基本データとして、最も無線区間の混雑が予想される2.4GHz帯での測定を実施しました。Figure 4のとおり、APと端末間の距離が10m未満であってもほぼ10Mbps未満の通信速度となっていること、及びそれ以上離れた場合は1Mbps未満で実用に耐えないレベル、特に39m地点に至っては端末がAPとの接続を確立できず測定不可の結果となりました。

一般家庭内で2.4GHz Wi-Fiを使ったことがある方にとって、AP近傍でも10Mbps出ないという結果はかなり悪いという感想が想定できますが、商用施設などの無線が混雑しているエリアにおいては十分に考えられる結果と言えます。また、本測定環境ではオフィス内にて2.4GHz Wi-Fiを使う利用者が他にも多数いることや、APの近くにて弊社の検証チームが他のWi-Fi試験機を扱っているなど2.4GHz帯の電波利用が多いエリアであるため、十分に想定できる結果であったと言えます。なお、一般的なスマートフォンのWi-Fiテザリング機能はテザリング区間で2.4GHz帯を使うことが多いため、端末間がある程度離れていると、例えモバイル区間が混雑していなかったとしてもテザリングの2.4GHz Wi-Fiで速度が出ず、結果的に通信環境に不満を感じることが多くあるため注意が必要です。ただし、通信品質の改善目的でテザリング設定を5GHzに切り替えて利用する場合は、前述の通り屋外にて屋外利用不可のW52/W53が選択されないよう注意する必要があります。

Figure 4 2.4GHz Wi-Fi 4 20MHzでの下り通信測定結果

繁忙時間帯と閑散時間帯との比較

前述の2.4GHz帯の測定結果として混雑影響が強く出ており、2.4GHz Wi-Fi本来の実力値が明確になっていませんでした。そのため、同一測定環境は維持したまま、他のWi-Fi利用者がほぼいなくなる休日に再測定を実施しました。結果はFigure 5のとおり大幅な改善が確認できており、50m離れた測定場所でも10Mbpsを超える通信速度が確認できました。

結果的に混雑影響で大幅に通信速度が変わることが確認できましたが、一般的には距離が遠くなるにつれて通信速度が低くなる傾向であることに対し、本測定では繁忙時間帯と閑散時間帯の何れも2m地点と39m地点で通信速度が他の測定場所と比較して低くなっていました。この結果に対して追跡調査を行ったところ、2m地点の近辺にて弊社の検証チームが他のWi-Fi試験機を休日も起動し続けていたことに加え、39m地点の近くに設置されていたAPの発射する電波が今回の試験対象周波数と重複していることが確認できました。以上より、例え利用者が少ない日時であっても他のAPからの電波発射は完全に止まっているわけではないため、他のAPからの干渉を完全に抑制できるわけではないことに注意が必要です。

Figure 5 2.4GHz Wi-Fi 4 20MHzでの下り通信測定結果 閑散時間帯

5GHz Wi-Fi 5

次に5GHz帯の基本データとして、他APもある程度使用している5GHz帯、W52での測定を実施しました。Figure 6のとおり、APと端末間の距離に依らず50m以内の距離で50-60Mbps程度の速度の結果となりました。

今回の結果は50m程度であれば距離が離れていても電波品質が変わらない結果と見えますが、実際には2mと50mでは電波強度にある程度差があり、かつノイズレベルに大きな差がないことがわかっているため、電波品質には差が生じていたと推測できます。しかし、今回用いたAPは古い規格であるWi-Fi 5までしかサポートしておらず、この測定系ではノイズを極力抑えた環境としても精々70Mbps程度の実効速度しか確認されていないため、規格上の上限を超えた範囲で電波品質の差はあったとしても、大半の測定場所において規格上最高レベルの電波品質として丸められていたと考えられます。そのため、追加試験においてはより高い電波品質をサポートしたWi-Fi 6サポート機器で試験する必要があります。

Figure 6 5GHz Wi-Fi 5 20MHzでの下り通信測定結果

5GHz Wi-Fi 6

本環境における5GHz Wi-Fi 試験5では電波品質が必要以上に良好であったため、距離と通信速度の相関がわかりにくい結果となりました。そこで、Wi-Fi 5より規格上の電波品質範囲が広いWi-Fi 6対応APと端末を手配し、同様の測定を実施しました。

まず、無線規格がWi-Fi 6に変わったことで理論上の通信速度上限が向上したため、Figure 7のとおりAP近傍で100Mbpsを大きく超える測定結果が確認できました。また、9m以遠での測定結果は、距離が伸びるにつれて実効速度は低下するものの大半は100Mbpsを超える実効速度が確認されており、Wi-Fi 5と比較して測定結果の大幅な向上が確認できました。なお、AP近傍にあたる2m及び6m地点については他のWi-Fi試験機の影響を受け、9m地点と比較して測定結果の安定性が落ちたことも併せて確認できています。

Figure 7 5GHz Wi-Fi 6 20MHzでの下り通信測定結果

チャネルボンディングによる速度向上と電波到達距離の関係について

最後に、Wi-Fi 6でさらなる通信速度の向上を目指してチャネルボンディングを行いました。チャネルボンディングとはWi-Fiの通信速度を向上させる技術の一つで、基本となるチャネルを複数束ねて利用することで理論上の通信速度を数倍に拡張できます。5GHz帯では基本的なチャネル幅は20MHzとなっており、今回の測定では4つのチャネルを束ねた80MHz設定としました。なお、この設定ではW52の帯域を全て占有してしまうため、他のAPとの干渉リスクは上がります。また、さらなるチャネルボンディングを行いたい場合はW52とW53を同時利用したり、W56を利用したりすることで8つのチャネルを束ねた160MHz設定も可能です。

Figure 8を見ると、AP近傍である6m以内ではチャネルボンディング前と比較して通信速度の向上が確認できました。一方で、9m以遠での測定結果はチャネルボンディング前より悪化しており、最も遠い50m地点では繁忙時間帯の2.4GHz Wi-Fi 4に匹敵する1Mbps未満という結果が得られました。これは、前述の干渉リスクの影響も多少ありますが、それ以上に電波法及び関連法令による送信電力の制限が影響しています。具体的には無線設備規則第49条の20第3号にて定義されているのですが、法令の原文はどうしても文章が複雑で理解しづらいです。そのため、今回の試験構成に該当する項目のみ抜粋すると、帯域ごとの送信電力は、

  • 20MHz以下の場合、1MHzあたり10mWまで ←最大で200mW(20MHz)まで
  • 20MHzを超え、40MHz以下の場合、1MHzあたり5mWまで ←最大で200mW(40MHz)まで
  • 40MHzを超え、80MHz以下の場合、1MHzあたり2.5mWまで ←最大で200mW(80MHz)まで
  • 80MHzを超え、160MHz以下の場合、1MHzあたり1.25mWまで ←最大で200mW(160MHz)まで

と指定されており、合計で200mWを超えられないように制限されています。無線通信では帯域を倍(例:20MHzから40MHzに拡張)とした場合、同じ電波品質を確保するためには合計送信電力も倍にする必要があるのですが、本規則に従った場合帯域を倍にしても合計送信電力を増やせないため、単純に同じ帯域で送信電力を半分にすることと同様の品質影響が出ることを意味しています。そのため、結果的に電波の到達距離が短くなり、ある程度APから離れた測定場所ではチャネルボンディングしていない設定と比較して理論上も大幅に通信速度が低下します。そのため、通信速度を高くする目的でチャネルボンディングを行いたい場合は、通信品質を維持できるエリアが狭くなることを十分に考慮してエリア設計する必要があります。

Figure 8 5GHz Wi-Fi 6 80MHzでの下り通信測定結果

今後の予定

今回は主に大多数の利用者が使ったことのあるWi-Fi 2.4GHz帯及び5GHz帯で測定しました。一方で、最近では新たな周波数帯である6GHz帯をサポートしたWi-Fi 6Eや、さらなる速度向上・機能強化が行われたWi-Fi 7対応機器も市場で扱われてきています。

今後は6GHz Wi-Fiの特徴を把握するための評価を行うとともに、別の無線規格であるプライベートLTEやローカル5Gを活用してWi-Fiとは異なる無線特性を評価する予定です。

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